8月25日~27日にかけて、コーヒー党としては初めて乗鞍岳(標高3,026m)に登ってきましたが、その道すがら素晴らしい景色と沢山の高山植物や高山蝶を観察することが出来ました。
今回は、岐阜県の平湯温泉側からシャトルバスで乗鞍スカイラインを経由して畳平まで行きましたが、このルートの良いところは、アルプスの美しい山並みを見ながら気持ちよく乗車することが出来ることです。バスが次第に高度を上げてくると、まず笠ヶ岳(標高2,897m)の、正に笠を伏せたような美しい山容が視界に入ってきました。
続いて車窓に飛び込んできたのは、穂高連峰の山並みです。中央右寄りにあるピークが前穂高岳(標高3,090m)で、中央から左側に連なっているのが奥穂高岳(標高3,190m)、一番左端に僅かに写っているのが西穂高岳(標高2,909m)です。
畳平のバスターミナルに到着して、すぐに乗鞍岳の主峰剣ヶ峰を目指して歩き始めました。登山道は鶴ヶ池の脇を通りながら歩きやすい道が続きますが、すぐ脇の緑一面の地衣類の中に、可愛い黄色い花が咲いていました。キク科の
ウサギギクという大変可愛い名前が付いています。
ウサギギクは、高山帯の乾いた草地や砂礫地に生える多年草ということですが、乗鞍岳の登山道周辺は正にその環境がピッタリしているのでしょう、至る所で目にすることが出来ました。
登山道は、富士見岳の下を回り込むように繋がっていますが、その富士見岳の麓の斜面には、たくさんの
コマクサが群落を作っていました。7月初旬頃咲く花という印象が強かったのですが、ここでは8月下旬のこの時期もたくさん咲いていました。
振り返ってみると、鶴ヶ池の向こう側に、この日宿泊した山小屋(白雲荘)が池に姿を映しています。左側の建物がたくさん集まっているところが、畳平のバスターミナルになります。
後ろに見える山は、左側の高い山が恵比須岳で、右側のやや低い山が魔王岳です。バスターミナルの掲示板には、この魔王岳の頂上付近で熊の糞が見つかったから注意するような掲示がありました。
この日のために、クマ除けの鈴を買ってきてよかったと思いました。
登山道が次第に高度を上げてくると、大きな岩がごろごろしたような環境に変わってきました。その脇にウサギギクと競い合うように黄色い花が小群落を作っていました。
ミヤマアキノキリンソウです。
ミヤマアキノキリンソウは、別名コガネギクと呼ばれているそうですが、亜高山帯に生えるものは低山帯に咲くものに比べて頭花が小さいようです。撮影した時は気が付きませんでしたが、ミツバチが吸蜜中でした。
登山道が間もなく肩の小屋に到着するというところで、すぐ脇に花畑が広がっていました。ここで目に付いたのは、このピンク色をした花穂を見事に付けていた
ヨツバシオガマの群落でした。
この辺りには、
ヨツバシオガマのほかに、ミヤマアキノキリンソウやオンタデなどが群生していましたから、なかなか見応えのある風情でした。
たくさんの花が咲いていた花畑のすぐ脇に、チョウが飛来して岩の上に翅を休めました。ちょっと距離がありましたが、50-200㎜の望遠レンズを持っていましたから、一番ズーム側にセットして撮影しました。う~む、これは今までに見たこともないチョウだな....図鑑で調べてみると、高山蝶の一種である
コヒオドシでした。
登山道の途中で、見晴らしの良い場所に出ました。雲海の間にずっと向こうまで続く山並みの重なりがあります。一番向こう側に見えるひと際高い山並みは、きっと南アルプスの山並みであろうと思います。
さて、今度は青紫色をしたとても爽やかな花です。真夏の高山を彩る
イワギキョウの花です。高山帯の砂礫地や岩場に生える多年草であるとのことです。
岩がごろごろした山肌にへばりつくように、まさに名前の通りの
イワギキョウの小群落がありました。
図鑑によれば、花が白色をしたシロバナイワギキョウもあると解説されていましたが、ここでは観察することが出来ませんでした。
ウサギギクの花に吸蜜のために飛来したチョウがいました。急いで近寄ってみると、オレンジ色を基調として、大きな目玉模様の色どりが美しい
クジャクチョウでした。周辺を見回してみると、同じように吸蜜のために飛来してくる個体数がかなりいることが確認できました。
さて、足下の高山植物やチョウばかりに見とれていないで、視線を前に向けてみると大雪渓の向こうに、乗鞍岳の主峰がそそり立っていました。登り途中には気が付きませんでしたが、下山して来た時にはこの大雪渓でスキーをしている人たちがたくさんいました。
岩陰で、強風にあおられている淡いピンク色をした毛の集まりは、
チングルマの花の終わった後にできる果実になるということです。
チングルマは、高山帯の雪渓の縁や砂礫地に生えるバラ科の落葉矮性低木ということです。このそう花の小群落は、高さが10cmちょっとくらいだったと思います。
ヒョロヒョロっとした長い花茎の先に白い4枚の花弁をつけたこの花は、
ミヤマハタザオであると思われます。
アブラナ科に属する種類で、低山から高山帯の砂礫地や岩場に生える多年草であると解説がありました。
山懐にびっしり生えていた
ハイマツの実を撮影したものです。今回の撮影旅行の主目的は、ライチョウを撮影することにあったのですが、そのライチョウはこのハイマツの実や若芽を餌として採食しているとのことです。
白い花弁に深緑色の斑が出ているこの花は、
トウヤクリンドウです。
乗鞍岳の周辺では、とてもたくさん観察することが出来たリンドウの仲間の花ですが、夏の終わりの時期を彩る種類になります。
トウヤクリンドウは、高山帯の砂礫地に生える植物ですが、その名前の由来は、その昔、この花の根を薬として用いたところにあったようです。
パンフレットには、北極にも生えると解説がありました。
乗鞍岳の主峰までもう一息というところで、山上に美しい水をたたえている権現池の姿です。周囲に雪渓が残っているわけですが、この池は日本で一番高いところに所在しているとのことでした。
砂礫地帯に群生しているこの白くて小さい花は、ナデシコ科の
イワツメクサです。丸く固まって小群落を作って生育していましたが、厳しい環境の中で小さい花が集まって、力を合わせて生き残りのために協力し合っているように思えました。
地面に近いところにカメラを置いて、望遠レンズで撮影した
イワツメクサです。砂礫地帯の厳しい環境であるということが分かってもらえると思います。はるかかなたにピンク色をしているのはコマクサの花です。
さて、こちらは
オンタデの花ですが、雌雄異株であるとされています。花がピンク色をしているこの株は雌株になるとのことです。
そうすると、こちらの白い花をつけている株は
オンタデの雄株ということになるのでしょう。この花も、乗鞍岳のあちらこちらで観察することが出来ました。
乗鞍岳の主峰、剣ヶ峰がすぐそこに見えてきました。頂上には乗鞍神社の祠がありますが、その右側には鳥居も立っているのが分かります。山頂を極めて初めて分かりましたが、この祠には宮司さんも駐在していて、お守りやお札などを販売していました。
岩陰にひっそりと咲いていたこの花は
コウメバチソウです。そういえば、先日あしだちの仲間と登った大菩薩嶺でウメバチソウを撮影することが出来ましたが、とてもよく似ているものの花の大きさがやや小さいようです。
こちらは、高山蝶の一種である
クモマベニヒカゲです。私は初めて見るチョウですが、このようにウサギギクの花で吸蜜しているところを撮れるとは思ってもいませんでした。
これは、登山道の岩礫の上に留まって翅を広げているところです。
クモマベニヒカゲの幼虫は、カヤツリグサ科やイネ科の植物を食草としているそうです。
ヤマハハコも小群落を作って咲いていました。
こちらは、赤い実がそろそろ熟し始めていた
コケモモの実です。そういえば、富士山の奥庭で水場の野鳥撮影に行った時、奥庭荘の売店で買ったコケモモジャムは、今でも毎朝ヨーグルトに入れて食べさせてもらっています。
さて、これはとても面白い形をした花です。中央の雌しべでしょうか、薄緑色をして大きく反り返っています。調べてみると、これが
ミヤマホツツジの花になるようです。目立たない花でしたが、形が面白いと思って撮影してきました。
黄色い花の小群落です。葉に光沢が感じら、鋸歯が浅いところからミヤマキンバイになるか、あるいはミヤマキンポウゲになるか、私には識別できませんでした。そうしたら、あしだちの山歩きの仲間から
ミヤマダイコンソウでは?とのメールをいただきました。早速図鑑で確認したところ、間違いありませんでした。ご指導大変ありがとうございました。
やっとのことで乗鞍岳の頂上にたどり着きました。登ってきた登山道を振り返ってみると、彼方に乗鞍コロナ観測所の白いドームが見る山が摩利支天岳(標高2,873m)になります。左側に白いピークがある丸っこい山が蚕玉岳(標高2,979m)です。右側の岩礫地帯にある屋根の上に石を並べた建物が分かりますか?これが山頂直下の売店でした。
山頂から、南の方向を見ると、雲の間に木曽の御岳山が遥かかなたに遠望できました。先月二人と一匹が避暑旅行を兼ねて、あの山の麓にある高原で、涼しい夏休みを送ってきたことが懐かしく思い出されました。